
山と溪谷社 「
レスキュー最前線 長野県警察山岳遭難救助隊」
登頂を目的としない山のプロ集団、山岳救助隊員とはどうして遭難は無くならないのか?
決して準備不足や技量不足、体力不足だけでは片付けられない不運もある。
そんな遭難事例から原因を検証していくという
「
ドキュメント 道迷い遭難」「
ドキュメント 滑落遭難」「ドキュメント 雪崩遭難」
「ドキュメント 気象遭難」「ドキュメント 単独遭難」「ドキュメント 山の突然死」
のシリーズについてはひと通り読んだ。
今回紹介する本は、そんな遭難者をレスキューする側からの視点で見た、
山のプロフェッショナル集団たちの苦労や苦悩、葛藤、そしてその活躍ぶりの手記である。
山岳救助隊員とて人間であるがゆえの弱さと強さ持っている。
そんな中でいかに自分をプロとしての自覚やモチベーションを高めていくのか。
遭難者のちょっとしたひと言に逆に隊員のほうが助けられることも。
プロとアマチュアの定義を簡単にカメラマンで例えると、
写真撮影で生活している人はプロで、趣味の範囲ならアマチュアと言われる。
しかしそんな単純なものではなく、実際にはもっと深い隔たりがある。
人はみんな何らかの仕事に関わって生活しているわけで、いわゆるその仕事のプロであるはずだ。
いや、プロであらなければならない。
特にサラリーマン生活では、繰り返されるいつもの日常につい慣れきってしまい
組織に組み込まれた中で、自分を高めて行くということがなかなか難しかったりする。
それでも自分にとって、その道のプロとして仕事しているのだ。
そんな仕事に自分や他人の生命がかかっているとなるとどうだろうか。
それでも人間であるがゆえにしんどいこともめんどくさいと思うことも「またか」と思うこともあるだろう。
手記からは、プロ意識を持って仕事をするということはこういうものだ、ということが思い知らされる。
はっ、となって我に返り、自分自身に置き換えてみたり。
登山者の側である自分の視点の、山に対しての取り組む姿勢がシャキッと正される思いがした。
それぞれの手記は短めでどんどん読んでいけて、その内容たるや似たものが無く、
すべてが新鮮と驚きと興奮の連続だった。
そして今日も山で活躍する救助隊員たちに頭が下がる思いである。
《目 次》
はじめに 山岳救助隊と十五年間の隊員生活
平成二十三年の夏山 涸沢常駐日誌
第1章 新入時の抱負
私を変えた遭難者のひとこと
「県警さん」と呼ばれて
初パトロールで受けた救助隊の洗礼
すべての基本は厳しい訓練にあり
心のこもった遭難者の「ありがとう」
遭難救助に大切なチームワーク
早く一人前の救助隊員に
第2章 ヘリコプター・レスキュー
航空隊黎明期の思い出
心の隙
三本の矢
今日のヘリコプター・レスキュー事情
断崖絶壁での救助活動
心肺停止状態からの生還
第3章 レスキューにかける情熱
家族の人生をも狂わせる遭難事故
歴代隊員から受け継がれる信頼の絆
登山者が最後に帰るべき場所
異動は事故を背負って
命をつなぐ連携プレー
「さあ、帰ろうね」に込めた思い
第4章 思い出に残る救助活動
危機一髪だった二重遭難
自分の判断で行った初めての救助活動
印象に残る三つの救助事例
長い残業
緊張をほぐしてくれた先輩隊員のひとこと
雪崩事故現場のジレンマ
山小屋の中での遭難事故
「どうかあともう一日だけ」
後立山連峰で続発した大型遭難
第5章 女性隊員と家族の思い
女性隊員に求められたきめ細かな対応
救助隊員になって知った素晴らしき山の世界
女性隊員として過ごした四年間
家族はただ無事を祈るのみ
第6章 現代の登山者事情
山の楽しさ・素晴らしさが一瞬で台無しに
山での悲劇をひとつでも少なく
山のルールや常識が通用しない登山者たち
客観的な視点を持った山登りを
あとがき
仕事に命をかけること
それが理解されることがなくても・・
山に行かれる方は読んでいただきたい本ですね
そして
今まさに 命がけで救助活動されている方々の
無事と健康を祈ります。